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2009-11-06(Fri)

ドリクラ雪外伝

なんかミツカタ!
ドリクラやってた当時、セッちゃんの内容がもう少し欲しかったので
自分で勝手に妄想して書いたSSっぽい。
完全に、誰???

※以下のSSには『ドリームクラブ』の登場人物、雪のネタバレを多分に
  含みます。ご注意下さい。

皆忙しそうに歩みを進める。どこを見ても若い男女の二人組みが多い。
それもそうだろう。だって今日はクリスマス・イブなんだもん。
そんな中、私は一人サンタのコスチュームを着て看板を持っている。
別に寂しくないと言えば嘘になるが、それ以上に今の私には課せられた義務がある。

「クリスマスケーキはいかがですか~!美味しいですよ!」

後ろに積んであるケーキの入った箱を一つでも多く捌くこと。それが今日の私の仕事だ。
実際、夕方辺りになってからかなりの数が出ている。
自分担当の数だけさっさと売り切って早くケーキを作る方の仕事に戻りたかった。
ケーキ屋でバイトをしているので作ることだけが仕事ではないのは分かってはいたが、
パティシエ志望の自分にとってはやはり売る側より作る側にまわっていた方が
断然好ましい状況だった。
だから私は普段から大きな声と言われている地声のボリュームを上げて
道行く人に呼びかける。

「クリスマスケーキっ!いかがっッスか~~~!!」


今日のバイトをこなし、私は一人下宿先のアパートへ戻ってきた。
棚の上に置いてある時計を見るともうすぐ日付が変わろうとしている。
(今日は結構働いたのに余り食欲無いな)
私は帰り際に店長が皆に持たせてくれたスモールサイズのクリスマスケーキが
入った箱を開け、ロウソクも刺さずそのままフォークで一口パク付いた。
「うん、おいしい… けどこんなに食べたら毒だよね」
一日中ケーキを見ていたからか、普段だったら大好きなケーキのはずなのに、
2、3口に運んで私はフォークを置いた。
(今日のバイトはどうしても外せなかったけど、明日はようやく顔出せるな)
私はその場に寝転がり横を見る。そこには人一人入れそうな程の大きな袋があった。
その袋を見てる自分の顔がにやけている事に気がついて顔を戻そうとしたが
気持ちは既に明日のことで一杯で直ぐには直りそうになかった。
私はそのまま布団へ流れ込み幸せな気持ちのまま眠りへと落ちた。

次の日、私は新幹線の中で髪を整え身なりを正すこととなった。
起きたら見事に新幹線の出発する1時間前で、思い切り寝坊した私は
シャワーを浴びながら歯を磨き、髪を乾かしながら服を着て準備も不純分なまま
東京駅へ向かった。幸い、現在のアパートは東京駅までは乗り継ぎもなしで行ける
距離にあったのでどうにかチケットを取っていた電車の時刻には間に合った。
トランクの他にそれよりも大きな袋を下げて走っていた自分はさぞ他人が見たら
珍妙な格好に見えただろう。袋が大きいのと私の身長が小さいのとで、一見したら
袋が走っているように見えたに違いない。私は座席で髪をとかしながら今更ながらに
顔が赤面してくるのを感じていた。


「静岡~。静岡~」
構内アナウンスが目的の駅へ着いたことを告げる。
「よい、っしょ!」
ドアが開くとそこから大きな袋が出てくる。勿論その後ろには私がいる。
(こりゃ宅配便で送った方が良かったかな?)
今更であったが、これだけの荷物を女手一つで運ぶのは中々に重労働だった。
駅のロータリーまで降り私はタクシーを捕まえる。
(ちょっと贅沢だけど、タクシー使っちゃうか)
「はい、どちらまでですか?」
私は空いたドアの奥に荷物を詰め込みながら応えた。
「こはる園までお願いします!」


タクシーから降り、トランクと荷物を両手に抱え、その建物の前に立つ。
その建物の塀の表札には『こはる園』と書かれていた。
(二年振り、か…)
「まだ二年なのか、もう二年なのか、分かんないや」
そこへ見知った顔がその建物の中から出てきて門の前に立っていた私に気付いた。
「あら? あらあら…!」
その初老の女性はゆっくりと表情を和らげ私の方へ歩み寄ってきてこう言った。
「おかえりぃ、雪(ゆき)」
「ただいまっ、おかーちゃん!」


「調理師免許はもう取れたのかい?」
「来年卒業前に進呈されるらしいからまだだけど、単位や試験はだいじょぶだよ」
そうかいそうかいと嬉しそうにおかあちゃんは頷く。私はその建物のリビングへと
呼ぶのが妥当な広さの客間へと通され、お互いの近況を語り合っていた。
「お前ったら、ここを出てからほとんど連絡寄越さないんだから。心配してたのよ?」
「ごめんね。去年はここを出て最初の年だったから、色々キツくて。
 今は学校もバイトもなんとか安定してきたからこうしてちょっと顔出しに戻ってきたの」
それに「ちょっと一日遅れちゃったけどね」と付け足す。
「積もる話も沢山あるけど、あのさ、チビたち元気にしてる?」
「ええ、今は年少組の子たちはお昼寝中よ。他の子は外へ奉仕活動に出ちゃってるけど」
チャーンス!
「あ、そだ!私が出てから増えたチビっている?」
「…年少では5人、年中で2人増えたわ…」
「…そ、か」
おかあちゃんの顔が少し暗くなったので私は出来るだけ表情を崩さず応える。
こういう事態も考えて数は多めに持ってきたから大丈夫だ。
私はそっとチビたちが寝ている部屋へ朝から小脇に抱えてきた大きな袋を持って忍び込む。
「あら? 雪、子供たちにプレゼント? あんただって大変だろうに…」
私は笑顔で「にしし」と振り返り寝てる子供たちに気付かれないように言う。
「私が子供だった時もこうして先に出てったねーちゃんやにーちゃんがサンタやって
 くれてたんだからさ、別に気にしないでよ」
おかあちゃんは少し困ったような顔で、でも心底嬉しそうに「ありがとね」と言った。
「気にしない気にしない~」と私は一人ずつ枕元に大きな袋から取り出した
小さな包みを置いて回る。不思議なことに私の心は幸福感で満ち足りていた。
ただの偽善? この私の笑顔を生み出すものが例え何であったとしても
今この瞬間、世界中で私以上に幸せな空間にいる人間はいないと思えた。


一通りプレゼントを配り終えた途端、安堵したのか昨夜からほとんど何も食べていない
ことに気づき急に腹が減った私は今リビングで軽い食事を摂っていた。
「そういえば雪、あんた来月成人式よね? こっちで出るの?」
と、おかあちゃんが気付いたように聞いてきた。
「んにゃ? 特に出る予定もないけど? 冬休み開けたらまたガッコとバイトで忙しいだろうし」
さも平然と応える私の返答に疑問を持ったのか、おかあちゃんが食い下がる。
「でも、一生に一度なんだし、出ておいても、ねえ?」
「そんなの出たところで別になんにも変わらないでしょ? いいよいいよ」
私は久し振りに口にするおかあちゃんのチャーハンに舌鼓を打ちながらしれっと応える。
「あんたは昔から我が儘を全然言わない子だったからねぇ…」
まだ心配そうな顔で私を見つめる。
「もう~、ここで面倒みるのは18まででしょ~? 私は2年も前にジリツしたんだからさ、
 そんなに心配してくれなくてももう大丈夫だよ」
「…雪」
逆効果だったか? おかあちゃんがさっきより悲しそうな顔になってしまった!
「あ、あ~… でもさ、幾つになってもおかあちゃんの子供に変わりはないしさ!
 また暇見て顔見せにくるしさ、チビたちにも会いたいし」
私は極力笑顔を作りおかあちゃんの気持ちを和らげようと努める。
しかし、その言葉に嘘はなかった。今でもここに居る人全てを家族だと思っていた。
そして自分より先にここを出て行ったねーちゃんやにーちゃんのことも。
「私さ、今パティシエ目指してるじゃん? いつかさ、ここの皆に私の作った
 大好きなケーキを食べて貰うのが私の夢なんだ!」
自分でも無理矢理な話の切り替えだと思ったが一旦口から零れた言葉は
暫く止まらなかった。
「今のガッコ卒業して調理師免許取ったらさ、どこかの素敵なお店に就職して
 一人でも多くの人に私の作った料理食べて貰いたい。そして美味しいって
 言って貰うの! それってすっごく幸せなことだよね!?」
おかあちゃんは目を細め、それを黙って聞いていた。
「…そうね。そうやってあんたはいつも自分の進む道を自分で見つけて切り開いてきたわ。
 精一杯自分の幸せを探しなさい」
笑顔で私を見つめ直したおかあちゃんの顔は晴れやかだった。
そして私の心も。
「うん! それがここで教わったことだし家訓だしね! 自分の幸せは自分で見つけて、
それを一人でも多くの人に分けてあげるんだ!」

「…雪は良い色に染まったようね…」
「へ?」
突如呟いたおかあちゃんの言葉の意味するところが分からなく、私は素っ頓狂な
声を上げてしまった。
「ねえ、あんたの名前、誕生日が8月なのに雪って、面白いと感じたことはない?」
そう、私は物心つく前にこの施設の前で拾われた孤児だ。
その時、私の個人を特定する情報は何もなく、今の名前はこのおかあちゃんが
私を引き取ってから付けてくれた名前だった。
「ん~、キレイな名前だし、そんなに気にしたことなかったかな~?」
私は本心のままそう応える。
「何よりおかあちゃんが付けてくれた名前だもん。素敵な名前だと思ってるけど、
 面白いと思ったことはないよ~」
私は少し照れながら手の平をひらひらさせた。
「雪ってのはね、最初は真っ白じゃない? だからどんな色にも後から染まっちゃうの。
 私はあんたに無限の可能性と希望、そして出来ることなら多くの人の上に
 雪のように幸せを振らせてあげられる子に育ってくれるように雪と名付けたのよ」
「へへっ、随分名前負けしてるかな私」
面ときってそこまで言われ流石の私ももう恥ずかしくておかあちゃんの顔をまっすぐ
見ることが出来なくなっていた。
「そんなことないわ。あんたは私の望んだ以上に立派な大人になろうとしている。
 親として誇りに思うわ」
「~~~… ま、まあ!おかあちゃんの子供だし!当然でしょ!」
私は気恥ずかしさの余り、すくっと立ち上がり、平らげた食器を下げる。
「今日はゆっくりしてけるの?」
「あ~、今日は無理言ってバイト休みにしてもらったから、明日朝一からバイト
 入っちゃっててもう戻るようなんだ」
まだ気恥ずかしいので食器を洗いながら振り向かずに私は言う。
「そう、残念ね。偶には連絡よこしなさいよ?」
「うん、努力は、する」
「何よそれ」
あははと二人して笑った。二人の談笑が聞えたのか、昼寝をしていたチビたちが
数人起きてきて
「あーーー! 雪ねーちゃんだーーー!」
「え? 雪ねーちゃん来てるの?」
「ねーちゃんねーちゃん! さっき起きたらさー、サンタさん来てくれてたんだぜ!」
一同に抱きつかれると同時に様々な言葉の嵐。1分もしない内に私の周りは
寝起きのチビたちに囲まれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
「おーおー! 元気いいねーチビっこたち! おかーちゃんの言うこと良く聞いてた
 からサンタさん来てくれたんだよ? これからもおかーちゃんの言うことは
 ちゃんと守るんだぞ。そうすればまた来年もサンタさん来てくれるかもね!」
一人一人の頭を撫でながら「そうか~」「うんうん」「よかったな~」と話を聞いて回る。
子供はなんでこうも大人の心を裸にするんだろ?
その時私は改めてこの子らのことが大好きだと思った。
(私がもし、かあちゃんになるようなことがあったら子供は沢山欲しいな)
私の中でまだ不確定で小さい新たな夢が芽生えた気がした。

それから私はおかあちゃんとチビたちと奉仕活動から戻ってきた弟妹らに見送られ
こはる園を後にした。「そろそろ帰るよ」と言って腰を上げてから現在まで一時間は
経っていた。ズボンを掴んで離さない子や帰っちゃヤダと駄々をこね泣き出してしまう子、
それらを宥めてる内に年中組、年長組も戻ってきて結局色々会話に華を咲かせてしまった。
今度はもっと時間をとってゆっくりとしていきたいなと思うと同時に、やっぱ我が家は
騒がしいけど落ち着くわ、と少し矛盾してるような感想を抱いてる自分に対して笑った。


帰り際におかあちゃんが「あんたはもっと自分を出して我が儘の一つも言ってみなさい」と
言っていたが、そう言われても実際のところピンと来ない。
(我が儘って言っても、料理してれば楽しいし、今のバイト先も恵まれてるし…)
なんだかんだで現状の私って結構幸せだよね、といういつもの所に落ち着く。

調理師学校も卒業し、晴れて私は調理師免許を取得した。
この時が来たら実行してみようと前から密かに温めていた計画があった。
それは、私の考案した新作ケーキをバイトの料理長に食べて貰うこと!
もしかしたら新商品として採用されてそのまま店先のショーケースに並べて
貰えるかも知れない! さっそく私はその計画を実行に移した。

人の夢と書いて儚いと読むように、現実は時として残酷なことも多々ある。
今、私はこの上ない絶望感と敗北感に押し潰されようとしていた。
料理長に例の物を提出しに行ったまでは良かった。実際料理長はその出来を
褒めてくれたし、次回作も期待してると言ってくれた。
だが、それを見咎めた他のパティシエたちが専門出たての小娘に嫉妬したのか
難癖を付けてきたのだ。

それに作った素材はどこから持ち出したのだ?

勿論スーパーで買ってきて持参した物である。

食材庫から盗んできたんじゃないか?

そんなことしない! するわけがない!

身体を使って料理長を誘ったんじゃない? あ、でもそんな幼児体型じゃ無理か? はッ!

……こいつらは、いったい、なにをいって… このわたしが、そんなことするはず…

日に日に事態は悪化していき、バイト先での私に対する罵詈雑言は増え、
結局私が店の食材庫から材料を以前から度々盗んでいたという嘘が蔓延してしまった。
そしてそれは料理長の耳にもすぐ入り、私は一人事務所へと呼ばれた。
何を聞かれ、何を問い質されるか分かりきっていただけに、料理長が口を開く前に
私が先に口を開いていた。
「私は、何も盗んだりしていませんッ!」
毅然とした態度で私は言い放った。
「うん、そうだろうね。僕が見ていても君のこの職に臨む姿は真摯で真っ直ぐだ」
人の良い料理長のことだ、そう言ってくれることも予想出来ていた。
「ですが、ここの先輩方は私を貶め、蔑み、愚弄しました」
尚も前を見据えて私は声色に怒気を抑えることが出来ず言う。
「私、春日雪(かすがゆき)は、ここで料理長にお世話して頂いたご恩は一生忘れません」
料理長は一目私の顔を見ると、俯きながら溜息混じりに言う。
「君の中では既に決心が付いてしまっているみたいだね。
 これからも君の成長振りを見て行けるのを楽しみにしていたんだが、残念だよ」
「そのお言葉だけで十分救われました。今まで有り難う御座いました」
私は深々と頭を下げた。この店とはたった二年の付き合いだったけれど、そこで
学んだことは数知れない貴重な場所だった。
「真っ直ぐなのは大概の物を貫く武器となるが、時として歪んだ物に対しては何も
 貫くことが出来ない場合もある。君はもう少し我が儘になってもいいかもしれない」
以前おかあちゃんに言われたことと同じようなことを言われ一瞬ドキリとしたが
私の、春日雪の名にかけて不純物に染まることを良しとしなかった。


若気の至りの一言で済ませられれば簡単だったが、現実はそう甘くはない。
今日も陽は沈み、明日もまた陽は昇る。傷心を抱いていたって日常はいつだって
そこにある。卒業後の内定も決まっていたバイト先の就職を蹴り、私は一人街を
彷徨うように歩いていた。ひとまず今日の食事に有り付けなければ明日を生きていけない。
その為にはバイトでもなんでも働き先を見つける必要があった。

(真っ直ぐな心だけじゃ、時として役に立たない、か…)

自分でも不器用な性格だと思う。おかあちゃんや料理長が言ったようにもう少し
他人に頼ったり我が儘を言ったりした方がいいのだろうか?
そんな問答が自分の中で何度も繰り返されるが、答えは出ない。

ふと気付くと、私は知らない場所まで歩いてきてしまっていたらしい。
周りは確かに東京の日頃見慣れた風景であったが、目の前の一角だけ
やたらとだだっ広い敷地に一際煌びやかな建物が目に入った。
「何、あれ?」
思わずその絢爛な建物に呆気にとられそう呟いてしまった。

「あ! あなたこのお店が見えるんですね?」
「えっ?」
ふと背後から声が掛けられたので思わず一歩前に飛び出て身構えてしまった。
そこにはピシッとした黒いスーツに身を固めた女性が一人にこやかに立っていた。
「突然失礼しました。私、こちらのドリームクラブで受付などを担当させて頂いてる者です」
その女性は軽く会釈し、丁寧に私に名詞を差し出した。
「? ドリームクラブ?」
何となく流れで受け取ってしまった名刺にもそう書かれていた。
「当クラブでは完全会員制となっていまして、来て頂くお客様にも条件が御座います」
特に聞いてもいないことを次々と目の前の女性は語り出していた。
「お客様だけでは御座いません。ここで働いて頂く従業員の方にもそれ相応の
 資格が必要となっておりまして…」
何がなんだか分からなく、私の視線はその女性の顔と妙な建物を行ったり来たりした。 
「え、と… つまり、どういうことですか?」
話の流れが見えなかったのでつい私はその女性との会話を試みてしまった。
今まで目の前で一人マシンガントークをしていた女性は改めて私に向き直り、
笑顔でこう言った。
「よろしかったらこちらで働いてみられては如何でしょう?」

先程、黒服の女性から投げ掛けられた言葉は現状無職の私にとって恰好の餌だったわけで、
取り合えず話だけでもということで今その、なんとかクラブの応接室に通されていた。
てっきり店長か誰かが出てきて説明か面接が始まるのかと思っていたら、
応接室のドアが開き現れたのは先程の黒服の女性だった。
「あの、あなたが店長さん、ですか?」
私の疑問も聞き流すように先程から変わらぬ笑顔で
「いいえ、私は単なる受付などをしている者です。お気になさらずに」
「単なる」「受付など」、色々言葉の端々に引っかかる部分はあるが気にしていたら
話が進みそうにないと感じ、私はまた質問した。
「で、ここってクラブみたいなんですが、所謂水商売する所なんですか?」
怪訝そうな顔をして私は聞いてみた。しかし、黒服の女性の方が驚いたような顔をする。
「確かに、お客様とお酒などをご一緒させて頂き優雅な一時を送って頂くのが
 私共の役目であります」
(やっぱり水商売じゃん…)
そういう仕事は落ちぶれても私の名にかけてすることに抵抗があった。
席を立ち、帰ろうとする私に向け、まだ先程の女性が語りかける。
「ですが、それは飽くまで純粋な、お互いが真っ直ぐな気持ちで同じ時を楽しく
 過ごせる空間を演出させて頂くというのが私共の信念で御座います」
さっきよりやや語尾が強くなり、女性の真剣さが伝わる。それと
「…真っ直ぐ?」
またあの言葉を耳にして思わず聞き返してしまっていた。
「はい! 簡単に申しますと『ピュア』ってことです!」
満面の笑みを浮かべ黒服の女性が得意げに言った。

それから、数十分は経っただろうか。私は未だこの店の応接間にいて
先程の黒服の女性とまだ話していた。
「でも私、お酒とか呑んだこと無いし、多分、弱いと思います…」
「春日さんはどちらか資格とかお持ちですか?」
そう聞かれ、勢いよく「はいっ!調理師免許持ってます!」と応えていた。
「でしたら当店の厨房を担当して頂くというのは如何でしょう? メニューの数は
 それ程多くは無いですし、それも簡単な軽食程度のメニューではありますけど」
「ケ、ケーキとかも作れますかッ!?」
この時の私の目は漫画にしたらきっと星形をしていたに違いない。
そしてそれを見逃すほど黒服さんも甘くはなかった。
「はい! お客様、ホストガール共々お誕生日イベントなどにはケーキをご用意させて
 頂くことも御座います。勿論、今後春日さんのオリジナルメニューを増やされていっても
 全く持って構いませんよ」
相変わらずの笑顔ではあったが、その笑顔の中には何処か勝利を核心した
勝者の余裕を感じさせた。
「やりますッ! やらせて下さい! 私ここで働きたいですッ!!」
我ながら軽率な決断だったと思い知らされるのはもう少し後のことである。

「では、春日さん。当店では一応規則としてお客様の前に出るときには皆“源氏名”で
 呼ばせて頂いているのですが、どちらかご希望の名前などありますか?」
(うっ… 実際に源氏名とか言われると水商売っぽくてイヤだなぁ…)
私は少し心配になりながら「本名でいいです」と言ったのだが、
「それは出来ません。当店では厳選されたお客様だけに会員としてお越し頂いてますが、
 万が一の場合に備えてホストガール全員に源氏名を付けさせて頂いてるんです」
この黒服さんの言うことも最もだろう。だけど私はおかあちゃんから貰ったこの名前に
誇りを持っている。例えあだ名でも名前を変えることには抵抗があった。
そんな私の困惑した顔を見てか、黒服さんは一つ提案を持ちかけてきた。
「ではこうしたらいかがでしょう! 春日雪さんですから名前の雪をそのまま使って
 “雪(せつ)”さんというのは?」
「せつ…?」

そう呼ばれた名に不思議と違和感は感じなかった。
それもそのはず。私は子供の頃から呼びやすいという理由で「ゆきちゃん」ではなく
「せっちゃん」と呼ばれてきたからだ。そう呼ばれていた頃の幼い日々が思い出され
少し顔が綻んだ。
「はい、それでいいです」

黒服さんはにっこり微笑んで「では“雪”さんに決まりですね」と言いながら、
手元の書類に何やら書き込んでいる。
それを黙って見ていると急に顔を向けたので私はぎょっとした。
「ついでと言ってはなんですが、雪さんは少し固い感じがしますので、少しキャラ作りなど
 されてみてはいかがでしょう?」
「キャ、キャラ作り!?」
いきなり突拍子もない事を言う人だなぁと私は思った。さっきからなんだかこの人に
驚かされてばかりのような気もする…
「そうですね~。雪さんは見た目も可愛らしいですし、妹系なんていかがでしょう?」
「い、妹ですか?」
確かに昔は妹だったが、今では多くの弟妹を持つ姉だ。
「いや待って、それ以前に厨房に立つ人間に源氏名やキャラ作りが必要あるんですか?」
なんだか変な流れになっていたのに気付き私は疑問をそのまま投げかけた。
でも黒服さんは
「規則ですから」
の一言で済ませた。またあの笑顔と一緒に。そして最後にまた付け加える。
「あ、一人称も“私”じゃなくて“セッちゃん”の方が妹っぽくていいかもしれませんね~?」
もう言われるままに流れていく自分がイヤというより、早くこの変な時間が流れて
いって欲しかったので、私も疲れた顔で一言だけ
「ぜ、善処します…」
「そうですよ! その方が我が儘言われたお客様もきっと喜んで下さるに違い有りませんから!
 これからは一杯我が儘を言って雪さん自身もお幸せになられることを願っております」

座ったまま少し離れた窓の方を見上げると、もう春になるというのに
そこには柔らかそうな雪がせっせと降り出していた。

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コメント

やっぱ先生は文才あるわ~wと再認識。
そこかしこのキーワードにドリクラ通いの当時を思い出しましたよ!

自分も雪とケコンして子供10人作る妄想話があるんですが、文章力ないので公開の予定は無いな。。。

『ペヤングの大盛りは厳しい…』まで読んで下さってありがとうございます。
あと、文才は皆無です。語彙力が可哀想なくらい欠落しております…

妄想するだけならタダですょ?
師匠も機会がありましたらいつかその妄想をお聞かせ下さい

あとがき

え~、まさかお一人でもご一瞥頂けるとは思ってなかったので
作品に対するあとがきも書かず投げっぱなしジャーマン状態でしたので、
少しだけこれからあとがきのようなものを書かせて頂きます。

まず、これは小説というより、普段私が漫画などを描く前にメモ書きする
プロットに若干文字数を増やしたものです。
小説として見た場合、情景、背景描写が少なく、台詞ばかりの文面に
なっているのはその為です。

そして一番重大な注意点はこれは「雪のSS」と謳っている割に、
全く持って雪っぽくない人物像になってしまっていること。
これには理由が有ります。
MASHがドリクラの雪シナリオやってて「外見は子供、中身も子供」な雪の
キャラの立ち位置が少々勿体なく感じ、もし「外見は子供、中身は大人」な
成文を含んだ雪だったらもっと上手い具合にシナリオも運べたのではないか?
と、分不相応にも思ってしまい、MASHの妄想で美化されゲームの雪とは
かなり違った性格の「中身が大人」な雪のSSとなってしまっています。

SSというよりここまでくるともうアナザーですね。
この事は最初に断っておくべき事柄でした。今更申し上げて済みません…orz
この駄文で雪の行動や言動にゲームの中のような子供子供した雰囲気が
皆無なのはその為です。

そして、実際のゲーム内の時間軸ともズレています。
ゲームなら雪が二十歳の冬にはもうドリクラに通っていましたよね。
ですがこの駄文では専門学校を卒業する時分は、まだ他の店でバイトを
していたり、春先にスカウトされています。そういう点からもアナザーと言えるでしょう。

私が何故このような物を書きたくなったかというと、原作で雪という人物に
それなりに好感が持てたが、もう少し奥行きのある話が見たかったからというのが
一番の理由です。はい、分不相応の物言いは毎度の事なので勘弁して下さい…orz

プレイしてて面白いと思った雪に関するファクターは、
孤児であること、本当はキッチン担当志望だったということ、
他のホストガールと違い雪だけ本名に限りなく近い源氏名であったということ、です。
それらのファクターを用いて自らこうあって欲しかったSSみたいのが書けないだろうか
と思い立ったのがこの駄文を書き始めた切っ掛けです。

そんな箇条書きで放置されていたテキストデータを発見しましたので、
今回その箇条書きに多大な加筆修正をし、この場所に掲載させて頂きました。
ここまで加筆したのであれば、もう少し小説のように書いても良かったかなと、
今更ながら思えてきました。

私的にはゲーム内のキーワードや要素を幾つか抽出し、適度に織り交ぜながら
書いたつもりですが、最後の辺りのムリクリなこじつけは如何ともし難いですね(汗

ここに普段書いてる駄文の“無駄に長いバージョン”と思って下さい。
この頃駄文が長文になることが多かったので、これからはもっと簡潔に
駄文を上手くまとめて書けるよう精進していきたいと思います。
でも、偶には頭を少しだけ捻って書くというのも良い頭の体操になりました。
思ったより書いてて気持ちが良かったです。

気付くとあとがきまで長文駄文になってきましたね。それではこの辺りで失礼します。
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